調査活動

神奈川県大連事務所~戦略不在の中で

【調査先】神奈川県大連事務所(正式には大連神奈川経済貿易事務所)

【目 的】

 神奈川県の海外駐在員事務所(今回は大連)の運営の実態などを調査すること

【対象施策】

1. インベスト神奈川

2. 海外企業誘致の促進

(1)  海外駐在員事務所の運営

(2)  サテライトオフィスの設置・運営   他

 

【内 容】

 大連市渡航前に、産業活性化と神奈川県大連事務所などのヒアリングを行った。渡航後の大連事務所の調査においては、堀川事務所長の対応の下、事務所の運営や現状などについて説明を受け、意見交換を行った。

① 事務所の第一印象

 宿泊地のある市街中心部から、大連湾を挟み反対側にある大連経済技術開発区に位置する神奈川県大連事務所に向かった。「事務所」の名が示すとおり、事務所ビルに入居していると想像していたが、到着したのは高級そうなホテルであった。ホテル内の事務所スペースを賃貸している理由は、安全面を考慮したためである。

 

写真2:事務所のあるホテル(銀帆賓館)のロビー/写真3:事務所の入り口(11階)

参考1:事務所の体制

 ●設備…面積 56㎡/事務スペース、応接コーナー

 ●職員…所長1名/現地採用職員1名(通訳兼アシスタント)

 ●設置主体…財団法人神奈川産業振興センター

② 事務所設立の経緯と役割

 中国の対外開放政策(1979年)によって、大連経済技術開発区の許可(1984年)、遼東半島の全面開放(1988年)といった対外開放の動きが活性化したことや、神奈川県と遼寧省政府の友好提携(1983年)がなされたことを契機として、神奈川県内の企業から中国各地との経済交流対する要望が増加した。これらを受け、1990年に神奈川県の中国における経済交流の拠点として事務所が設立されることになった。

設置主体が、㈶神奈川県産業振興センター(県の外郭団体)であるのは、中国政府が「海外の地方自治体の事務所は設置させることとしない」という方針のためであり、実質的な運営母体は神奈川県であり、所長も県からの出向した職員である。

事務所の事業内容は、①中国企業の神奈川県への誘致促進と②神奈川県内企業の対中国ビジネスへの支援である。現在は、特に前者に重きを置いている。

③ 最近の実績

 事務所の最近の実績に触れてみたい。インベスト神奈川(ワンストップサービス)を利用して、中国系の企業は、2005年に1件(横浜市中区)、2007年に2件(厚木市横浜市神奈川区)、神奈川県に進出している。誘致企業の業種は全てソフトウェア開発であり、その規模は中小規模である。事務所運営のための平成20年度の予算額はおおよそ2,800千円程度(それ以前は4,500千円程度で推移)である。県の中国戦略への具体的な数値目標がないだけに、予算額に見合った実績なのかは判断し難い。

④ 県の戦略不在と組織の脆弱性

 事務所の設置当初の目的は、神奈川県内の企業の中国進出に主眼が置かれていた。しかし、時代の変遷や現在の知事の就任によって、中国企業の県内誘致が事務所の主目的となった。「企業誘致の促進」は神奈川県の産業振興において重要な施策であるが、それらを遂行するために大連事務所においては大きく2つの課題がある。

 第一の課題は、組織としての脆弱性である。所長1人と現地スタッフ1人で運営される事務所は常にフル回転である。所長曰く「企業誘致の仕事は営業活動に他ならない。1000件回って数件誘致できる世界である。」とのことであった。お話をお伺いする限り、所長は非常に有能な方であり、与えられた条件の下で最大限の努力をされていたことには多くの敬意を示したい。しかし、広大な中国に無数に存在する企業を相手に企業誘致を標榜する事務所としては、現在の事務所の組織体制は脆弱に過ぎると感じられた。

 第二の課題は、県の戦略の不在である。どのような業種や規模の企業をどの程度誘致するのかなど具体的な数値目標が事務所には課されていない(海外全体では28社という目標があるようであるが、その数値の妥当性は問わなければならない)。現在は所長の方針によって、中小規模のソフトウェア開発関連の企業を中心に誘致作業が行われている。本来であれば、県の戦略があって事務所の規模が決定されるのが順当である。県の戦略不在が大連事務所の組織体制を曖昧にしていると考えざるを得ない。

サテライトオフィスへの移行と是非

 2009年度神奈川県一般会計予算案の中で、大連にサテライトオフィスを新たに設置することが明記されている(サテライトオフィス運営費)。既存の事務所を廃止して、プロポーザル方式で選ばれた相手に業務を委託することがその内容である。方針転換の背景には、大連事務所の運営費を削減する県の目的があると考えられる。実質直営形式の現在から委託に変更することで、年間の運営費は600万円程度になるとされている。表面的には2,000万円近くの経費削減になる試算となる。しかし、サテライトオフィスになることで、目に見えない部分での損失が生じる可能性も否定できない。

 第一の問題は、委託先が企業誘致という県の目的を達成できるかが未知数であるということである。現在、海外事務所を委託方式にしている自治体も見られる(青森県岡山県など)。しかし、それらの委託先の主業務は経済交流などに主目的が置かれており、企業誘致を業務としてこなし切れるかは定かではなく、㈶神奈川県産業振興センター以外の委託先が手を挙げるかも定かではない。また、委託方法を誤ると設立以来19年間築き上げてきた人脈や信用といった無形財産も失うことになりかねない。

 第二の問題は、県の戦略が定まらない限り、事務所の運営形態の変更をすることは早計であるということである。委託先や方法次第では、経費の削減にはなっても、企業誘致という主目的自体がまったく機能しない事態も想定される。そうなれば、サテライトオフィスを設置すること自体に意味はなくなる。

⑥ 総括

 以上、神奈川県大連事務所について触れてきたが、事務所の存在意義については肯定することも否定することもできない。全ては、神奈川県の戦略が明確することがまずは肝要であると考える。