調査活動

沖縄県議会~立法院としての尊厳その2

③ 立法院の組織

 1963年頃の立法院と現在の沖縄県議会の組織体制を紹介する。明らかな違いは、事務局の職員数である。立法院が議員1人あたり3.9名の職員を抱えているのに対して、県議会はわずか0.9名である。組織体制も立法院の方が充実している。立法院は、「琉球政府に属する権能又は民政副長官が琉球政府に付与する権能を実施するに必要にして、かつ、適当なすべての立法を行う権限」を有する(琉球政府章典第19条)ので、事務局職員が充実していることは当然の帰結ともいえる。神奈川県議会において同割合の職員数を配置すると、400人強の職員が必要になる。

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立法院 (1963年頃/議員1人あたり職員約3.9名)

議 長 1名

副議長 1名

議 員 27名(任期は3年) ※議員定数は29名

本会議

常任委員会行政法務委員会/内政委員会/文教社会委員会/経済工務委員会/

議会運営委員会/予算決算委員会

事務局 定数112名

総務課

議事課

記録課

法制課

行政法務調査室

内政調査室

文教社会調査室

経済工務調査室

予算決算調査室

図書

参考:沖縄公文書館HP「琉球政府組織図」

http://www.archives.pref.okinawa.jp/toppage/flm_archas_rsoshiki.html

    琉球政府琉球政府広報63号、1963年8月6日

    上記の資料を基に筆者が作成

沖縄県議会(2008年/議員1人あたり職員約0.9名)

議 長 1名

副議長 1名

議 員 46名(任期は4年) ※議員定数は48名

本会議

常任委員会…総務企画常任委員会/経済労働常任委員会/文教厚生常任委員会

         土木常任委員会/米軍基地関係特別委員会/観光振興・新新垣空港建設促進特別委員会/沖縄振興・那覇空港整備促進特別委員会/議会運営委員会/決算特別委員会/予算特別委員会

事務局 定数43名

総務課

議事課…議事運営班/記録班

政務調査課…法制広報班/図書室/委員会班/議会史編さん班

参考:沖縄県議会事務局『議会の概要(平成20年度)』を基に筆者が作成

④ 条例制定機関としての県議会

 近年、地方議会において政策的な議員提案条例が少ないことを否定的に捉える事が少なくない。神奈川県では、2007年に「神奈川県がん克服条例」が34年ぶりに議員提案で制定されたことを契機として、「神奈川県中小企業活性化条例」や「神奈川県議会基本条例」も制定されている。神奈川県議会では議員提案条例を積極的に行っていこうという姿勢がうかがえる。

 その一方で、これらの動きがどの程度までの条例制定を念頭においているのかを定める必要がある。現在各県議会で制定されているような理念性の強い条例を年に数本提出する程度であれば、事務局機能の大幅な増強を伴う必要はないだろう。しかし、立法院のように、完全なる立法機関的な議会を目指すのであれば、地方自治法の改正を含めた制度改正が不可避であるし、事務局機能の大幅な増強が求められる。議員提案条例を積極的に作っていこうとする姿勢は重要だが、制度改革の視座を常に念頭に入れていないと、大きな無駄と非効率を生み出し、条例制定のための条例が跋扈することになりかねない。

 ところで、県議会において、議員提案条例がほとんどなされなかった理由は、大きく分けて3つあると考える。地方に自己決定の裁量が少ないこと、行政側に条例及び予算の提出権を認めていることである。立法院との比較で考察する。

 第一の理由についてである。県の条例内容は、地方自治法14条によってかなりの程度制限されている。例えば刑事罰を例にとると、条例の罰則は「2年以下の懲役・禁固若しくは100万円以下の罰金もしくは没収、5万円以下の過料」(地方自治法14条3項)に制限されるが、立法院の制定する法律には制限はなく、死刑を刑罰にすることも理論的には可能である。よって、国が地方の細部にわたってまで法律で定めている現状下では、県自身が独自の条例を制定する余地が非常に少ない。

 第二の理由についてである。知事も条例の提出権を有する(地方自治法149条)。よって、議員が条例を提案しなくても、行政を運営するための条例を知事によって制定されうるし、その方が効率のよいことも多い(議会で条例を提出するには様々な障壁がある)。また、様々な質問の機会などを通じて、知事に対して各議員が問題意識を持つ条例の制定を促すことは日常的に行われている。これは、米国の州知事が法案の提出権を持たないが故に、教書演説などで議会に知事が望む法案を提案・議決することを促すことの逆になるかもしれない。

 第三の理由についてである。予算案の提出権は知事のみに帰属する(地方自治法211条)。実効的な条例を制定しようと考えれば、予算案との兼ね合いを考慮することは不可避である。予算提出権が議会に認められていない現状は、議員の積極的な条例提案の方向性とは相反する。

 以上を踏まえると、形式的に議員提案条例が少ないことが、必ずしも議員が本来の役割を果たしていないと言い切れない側面もある。近年の議員提案条例の促進を求める流れは、日本の県議会制度を改めて考えることと表裏をなすと考えられる。琉球政府の立法院の事例は大いに参考になる。

琉球政府章典

 琉球政府や立法院といった各機関の権能や琉球住民の権利を明記した「琉球政府章典」が1952年に公布された。琉球政府章典は、正統性の瑕疵は否めないものの、琉球政府の実質的な憲法の役割を果たした。これは、アメリカ合衆国の各州が憲法を有し、州政府の運営にあたっていることに類似する 。

第3節 沖縄県議会の現状

① 議員居室~議員が仕事をするための部屋

 沖縄県議会の各議員は「議員居室」という個室型執務室を与えられている。事務机、応接セット、書籍を配架する棚など執務に必要なものは一通り揃っている。いくつかの居室を拝見させて頂いたが、皆多くの資料に囲まれ気概を持って議員活動に臨んでいる姿勢が窺えた。会派としての会議スペースは別途用意されている。

 居室は立法院時代の名残である。立法府であった立法院においては、米国の州議会などがそうであるように、議員の処理する仕事量や求められる政策能力は現在の都道県議会議員とはまったく異なる。行政が議会の業務を肩代わりしてくれるわけではないからである。議員各位が執務に携わるための部屋があることも当然といえる。沖縄県議会は1992年に立法院時代からの旧議事堂を廃し、新議事堂に建て替えたが、居室は変わらず設置されている。ちなみに、主要都市圏の議会でないにも関わらず、沖縄県議会は議員の専業議員率が最も高い都道府県の一つである 。

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写真 3:議員居室の様子

② 充実した図書

 沖縄県議会の議会図書室は、今まで見た中でも最も充実した内容であった。以下に、沖縄県議会と神奈川県議会の図書室の比較を掲載した。両議会では蔵書数に大きな開きがある。立法府であった頃は議員も調査能力を必要としたためであろう。立法院時代の最盛期には室長以下7名の職員がいた。但し、現在の沖縄県議会の議員の図書室利用率は神奈川県同様に低い。

また、沖縄県議会図書室で文献調査を行う機会があったが、20年以上議会事務局に勤める図書室職員の方の助力のおかげで大変効率的な調査を行うことが出来た。改めて香川県の件と同様に、専属職員の重要性を痛感した。

 

沖縄県議会と神奈川県議会の図書室の比較

蔵書数(議員1人あたり) 利用議員数 面積 予算(千円)

沖縄県議会 132,086冊(2,752冊) 136名 565㎡ 2,906円

神奈川県議会 12,210冊(114冊) 274名 179㎡ 4,920円

参考:沖縄県議会及び神奈川県議会の『議会図書室のあらまし』より筆者が作成

写真 4:議会図書室の様子

③ 議長の任期

 沖縄県議会では、議長は4年間務め上げることを基本としている(時折2年交代が見られる)。1年と言う短期間で議長を交代させることは、議会の尊厳を貶めるだけではなく、知事と対峙する機関としてその役割を半減させてしまうことに他ならないからである。三権分立が厳格に適用されていた立法院時代の尊厳がそこには垣間見える。神奈川県議会の議長は100代を数えたが、議会の権能強化を叫ぶならば、その尊厳をも大切にされたい。

④ 議事に関わらないものは出席せず

 知事や理事者は、提案説明や代表・一般質問など議事に関わりがある場合を除いては基本的に議場にはいない。当然、本会議最終日も議決と討論のみなので知事の姿は議場にはない。立法院時代には、質問の答弁で行政側が議場に来ることもなかったわけであるから、知事などがいないことに元々違和感はなかったと思われる。

神奈川県議会では、議事への関連の有無に関わらず知事・理事者他多くの職員などが議場に参集している。必要のない人員を議場に留めておくことは、行政運営上の多大な損失であるといえる。神奈川県議会でも検討に値する。