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第1節 調査概要
神奈川中小企業センタービルを訪れ、常務兼事務局長及び専務理事より、財団法人神奈川産業振興センターについての説明を受けた後、意見交換を行った。また、最後にビル内の施設やインキュベーション企業の現状などを視察した。
以下、調査において得た知見の内、特筆すべきものについて報告する。
第2節 産業振興センターの概要と印象
産業振興センターの目的
産業振興センター「中小企業対策の推進等により、神奈川県内の産業振興を図ること」(寄付行為第3条)を目的としている。県の出資を50%以上受けている第3セクターであり、指定法人(中小企業支援法7条)の指定及び中核支援機関(中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律26条)の認定を県より受けている。
県の中小企業政策のかなりの部分は、産業振興センターへの補助金という形で、行われている現状があり、その観点からは、産業振興センターの存在意義は見出される。
概要
名称 財団法人神奈川産業振興センター
英語名称:Kanagawa Industrial Promotion Center
略称 KIP (キップ)
所在地 〒231-0015 神奈川県横浜市中区尾上町5-80
神奈川中小企業センタービル2階・4階~6階
各支所 県央支所
〒243-0435
海老名市下今泉705-1「神奈川県産業技術センター」内
湘南支所
〒254-0073
平塚市西八幡1-3-1神奈川県平塚合同庁舎「湘南地域県政総合センター商工観光課」内
川崎駐在事務所
〒212-0013
川崎市幸区堀川町66-20川崎市産業振興会館6階「財団法人川崎市産業振興財団」内
相模原駐在事務所
〒229-0039
相模原市中央3-12-3「相模原商工会議所」内
山下町支所
〒231-8310
横浜市中区山下町2産業貿易センタービル2階
大連事務所
〒116600
中華人民共和国遼寧省大連経済技術開発区金馬路135号銀帆賓館1100
出典:神奈川県産業振興センターHP〈http://www.kipc.or.jp/content/view/95/32/〉
印象
調査の事前勉強をした時も、会議室で産業振興センターの説明を受けた時も、共通して感じられたことは、多くの事業を抱えており、同センターの目的に対して、効果的かつ効率的な運営が行われているのかという疑問である。
主に、①県事業との境、②他団体との事業の境、③事業自体の適性の3点についていくつかの課題があると思われた。
第3節 課題点
①県事業との境
産業振興センターが扱う事業の内、県からの補助金によって運営されている事業は少なくない。例えば、県の産業活性課にかかる範囲でも以下に示す事業が補助金によって行われている。中には、国の中小企業関連諸法によって実施されている事業も見られる。
これらの事業を細部まで調査をしていくと、運営主体がなぜ同センターでなければならないのかが判然としないものが見られたり、或いは県事業との類似事業が散見されたりする。相談業務、国際化業務・アドバイザー業務において、特にそう感じられた。
事業名 査定額(千円) 根拠法令
大連・神奈川経済貿易事務所運営事業費補助 2,431
神奈川県中小企業支援センター事業費補助(県単) 405,139
神奈川県中小企業支援センター産業貿易振興事業費補助 115,753
神奈川県中小企業支援センター支援体制整備事業費補助 39,936 中小企業支援法
神奈川県中小企業支援センター経営革新支援事業費補助 17,893 中小企業支援法
中小企業経営資源強化事業費補助 1,458 中小企業支援法
地域巡回総合指導事業費補助 1,365 中小企業支援法
地域新産業創出総合支援事業費補助 23,554 中小企業新事業活動促進法
インキュベート支援機能強化事業費補助 15,614 中小企業新事業活動促進法
合計 623,143
平成21年度神奈川県予算見積書より筆者が抜粋・編集
②他団体との境
県内には、㈶横浜企業経営支援財団、㈶川崎市産業振興財団が存在する。前者の目的は、「創業の促進、中小・中堅企業等の新事業創出、経営革新、経営基盤の強化等を図るための事業を行い、もって横浜市の産業経済の発展に寄与すること」(㈶横浜企業経営支援財団の寄付行為3条)であり、後者は「高度情報化に対応するため、企業間の情報交換の促進、技術開発及び産業経済に関する調査研究、人材育成等を行うことにより、川崎市内における産業の高度化と、地域産業の振興を図り、もって川崎市の産業経済の発展に寄与すること」(㈶川崎市産業振興財団の寄付行為3条)である。
文言の相違は見られるが、産業振興センターの目的とするところと変わりはない。そして、これらの目的の類似性は、各団体の事業段階での類似性に現れる。例えば、両団体で行われている「よこはまビジネスグランプリ」、「かわさき企業家オーディション」と、同センターが行う「ビジネスオーディション」との関係はその適例である。実際、同センターの説明者もその類似性について言及しており、賞金の高額化など独自性の創出の方向性について述べていた。
③事業自体の適正
産業振興センターは、第3セクターであるが故に、その運営の失敗が即ち県民の負担に転嫁される可能性が高い。よって、同センターが、リスク事業や過度の収益事業に傾注することは避けなければならない。しかし、実際はいくつかのリスク事業を抱えている。
例えば、同センターは「万葉荘」という保養施設を湯河原で運営している。財務状況を確認すると、現在のところ赤字経営である。同センターの目的に照らし合わせても、万葉荘の運営は、寄付行為の範囲外と考えられる。
また、同センターは設備貸与制度を実施している。小規模事業企業者等設備導入資金助成法を根拠に同センターが割賦事業やリース事業を行う内容であるが、民間のリース事業で賄えるものにまで、制度活用をさせている実態が存在する。法律の趣旨を尊重することは重要であるが、同センターが抱える必要のないものまで、制度運用の範囲を広げることは妥当ではない。
第4節 施設
割愛
第5節 まとめ
同センターは、「中期経営計画2007」を策定し、「組織や事業体制の見直しを進めることにより効率的な予算の執行に努め、県や他の支援機関との連携を図りながら、総合的な施策の展開を進めている」としている。確かに、同計画で示された内容は一定の評価に値する。しかし、より根本的な部分での事業の整理等が必要であると私には感じられた。
例えば、横浜市や川崎市に関することは、両市の支援センターに任せ、それ以外の県内の中小企業支援に同センターは注力していくことも一つの方針ではないかと考えられる。県全体の中小企業支援については、横の連携によって対応していけばよいし、県の地方分権の方向性を考えると、整合性がある。
但し、県内他団体及び他都道府県の中小企業支援団体及び県の中小企業支援事業などの綿密な調査を行った上でなければ、これ以上のより詳細な検討はできない。併せて調査を行っていきたい。