
2020年3月23日
大志会・菅原直敏です。定県第1号議案「令和2年度神奈川県一般会計予算」に対し、反対する立場から討論を行います。
●財政運営について
まずは、財政運営についてです。
「綱渡りの財政運営」、これらはこの数年間、知事が本県財政の厳しさを表すために用いてきた言葉です。知事が認めるように「本県財政は例年以上に大変厳しい状況」にあります。
かつて、本県は、平成25・26年度の急激な財源不足を補うために、2012年1月、神奈川県緊急財政対策本部を設置し、黒岩知事を本部長として、財政再建の取り組みを進めました。その内容は、①聖域を設けずにゼロベースでの徹底的な見直しを行う、② 県民サービスに影響を及ぼす取組みであることから、職員に相応の負担を求める、③県民・企業・団体・市町村との危機感共有に努め、関係者の理解・協力を得ながら取組みを進める、という厳しいものでした。そして、知事や私たち議員などの特別職だけでなく、一般職員も給与・報酬を引き下げることで取り組みを推進しました。
当時の緊急財政対策は一定の効果があったと評価できるものの、本県の財源不足は年々厳しさを増していることは、知事の提案説明にもある通りです。
一方で、当時あった財政に対する危機感が薄らいでいるのではないかと知事の県政運営をここ数年拝見していて、私は感じていました。その象徴が、23日に反対討論で申し上げた、財政が非常に厳しいにも関わらず知事が特別職の給与引き上げを自ら提案することです。そして、その危機感の薄れが各施策にあまり良くない形で現れ始めていると私は捉えています。
新型コロナウィルスの大流行もあり、来年度予算が提案された時よりも、来年度の状況はさらに厳しくなると予測されます。今回の反対は、改選後初の予算案ですので、この4年間の県政・財政運営を考える上で最も重要であると考え、いくつかの個別の知事の県政運営の方向性についても改善を促すものです。
●「未病」について
まずは、「未病」についてです。「未病」は知事が最も力を入れている取り組みですが、少し行き過ぎの部分があるのではないかと思い、ご指摘をさせて頂きます。
昨年の「第8回一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会」に知事が提出した資料によると、未病とは、健康と病気を「二分論」の概念で捉えるのではなく、心身の状態は 健康と病気の間を連続的に変化するものとして捉え、この全ての変化の過程を表す概念とされています。また、本県が関わり未病指数の研究が行われているものの、検討・試行段階であり、確かな根拠に基づくとは言い難い状況にあります。
一方で、本県は、様々な事業に対して「未病」の名称を冠し、その取り組みを進めてきました。「未病」が保健・医療・福祉の用語を言い換える範疇でとどまっていたのであれば、無用な周知・啓発コストが出ているにせよ、許容できる範囲でした。また、「ミビョーマン」「未病番長」「未病を叫ぶ男」などの取り組みも、成果や費用対効果も含めて謎が多いですが、かろうじて許容しました。
しかし、これが産業政策にまで及ぶに至り、私は大きな違和感と危機感を覚えました。本県は、県経済を支える中小企業の支援に未病という概念を当てはめ、「企業経営の未病CHECKシート」のアプリを開発するだけでなく、同シートの活用や「企業経営の未病改善のための事業計画書」の策定を信用保証料の割引の要件にする取り組みを始めました。
保健医療の分野でも根拠が確立されていない「未病」という概念を用い、経営診断をさせたり、信用保証料の割引の要件にすることは、行き過ぎた取り組みではないでしょうか。県内の企業に余計な負担を課すべきではありません。
本県は税収に占める法人二税の割合が比較的高く、足腰の強い県内産業維持・育成は死活問題です。さらに、来年度は新型コロナウィルスによる一連の影響で、県内企業のおかれている状況は今まで以上に厳しくなります。経営支援に「未病」という概念を持ち込むことはさけるべきです。これは、1年間産業労働常任委員会でこれらの事業について徹底した議論を行なった上での結論です。
●津久井やまゆり園の運営法人の見直し
次に、津久井やまゆり園の運営法人の見直しについてです。
2019年12月5日の本会議において、知事は津久井やまゆり園の運営法人の見直しを唐突に表明されました。その後、2020年3月17日の予算委員会において、昨年の方向性を大きく転換しました。
2016年秋、知事が津久井の地に大規模施設で建て替えを表明した際に、私はその考えに反対を表明しました。その後、当事者、家族、運営者、障害者関係団体の様々な声及び県議会での議論も踏まえ、2017年年明けに、知事はその判断を改め、現在の分散型で地域移行を念頭に入れた形に変更されました。
このご判断は今でも英断だと思っています。何故ならば、当時共生社会の推進に政策的力点を置いていなかった知事が、一部のご家族や運営団体の意見を踏まえ、誤った判断を下すことは、相模原障害者施設殺傷事件直後の社会の空気を考慮すれば仕方のない部分もあったからです。むしろ素直に謝意を示し、自らの責任の元、方向転換を示したことは、知事の任期中の取り組みの中では最も評価に値することであると私は考えています。
しかし、今回は違います。あれから4年経ち、議会と行政が協力し「ともに生きる社会かながわ憲章」を策定し、議会も行政も共生社会とは何か、障害のある方々に私たちはどう関わっていくべきかということを徹底的に知って、考えて、県民を巻き込んで行動してきました。共生社会を推進するための組織も設置されています。
そうであるにも関わらず、当事者が置かれている状況への配慮を大きく欠いた今回のご判断は、「思いつき」といっても過言ではなく、現場への不必要な混乱と不安をこの間に招いただけでなく、県民に対して本県の共生社会推進のあり方そのものにも懸念を抱かせることになりました。虐待やかながわ共同会のガバナンスの問題は切り分けて考えるべきでした。
津久井やまゆり園の再生に向けた取り組みは、本県の共生社会推進の象徴でもあります。共生社会実現へ必要なことは、派手なイベントを開催することでも、県民が踊る動画を作ることでもありません。地味ですが、地道に当事者と向き合う取り組みなくして、真の共生社会実現はなし得ません。地に足のついた取り組みに軸足を移すべきだと考えます。
●新型コロナウィルスの世界的大流行について
最後に、新型コロナウィルスの世界的大流行に関わって3点あります。
まず、今後の対策の方向性についてです。
3月11日、世界保健機関のテドロス事務局長が、新型コロナウィルスが「パンデミック」つまり、世界的大流行の状態にあると表明しました。
3月19日、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議において、尾身茂副座長は、「短期的収束は考えにくく、長期戦を覚悟する必要がある」と指摘し、爆発的感染拡大いわゆるオーバーシュートの懸念について言及されています。
したがって、もちろん、最速・最善の形で一連の新型コロナウィルスの危機が収束することを強く望むものですが、一方で最悪の事態も躊躇なく想定し、備える必要があります。
このような中、私が懸念しているのは、一部の日本人の気の緩みです。欧米では戦時並みの厳戒態勢でウィルス対策にあたっているにも関わらず、日本では大規模なイベントが開催されるなど、楽観的なムードが一部見られるようになりました。
いたずらに危機を煽る必要はありません。しかし、一旦爆発的な感染拡大が起きれば、今までの封じ込めの努力が全て水泡に帰します。新型コロナウィルスの特性を知り、「正しく恐れる」ことが重要だと考えます。
したがって、今後も県民に対して適切でわかりやすい情報提供を継続し、知事におかれましても、県民に対する注意喚起を強めていって頂けたらと思います。
次に、オリンピック2020についてです。昨日の安倍首相と国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ会長の電話会談により、東京オリンピックの延期が合意されました。日本だけでなく、世界各国の現状を考慮すると、今は新型コロナウィルス対策に県も国も注力すべきであるので、大きな不確定要素がなくなったという点で、この延期は評価するものです。また、今回、この意思決定の過程で、高度・複雑に商業化・肥大化したオリピックのあり方が課題視されました。延期における冷却期間を機に、オリンピックは何のために行われるのかという点を再確認し、県としては県内アスリートの方々を支援していって頂けたらと思います。
最後に、私は今回の新型コロナウィルスによる一連の危機は、ウィルスとの戦いであると同時に、政治・経済を始めとした日本のアンシャンレジーム(旧体制・古い仕組み)との戦いでもあると考えています。
1991年のバブル崩壊以降、我が国は昭和の成功体験に固執するあまりに、この30年間、変えるべきを変えられず、課題を先送りし、衰退の一途を辿ってきました。
2008年の金融危機、2011年の東日本大震災という大きな出来事もこのアンシャンレジームを抜本的に変えるに至りませんでした。
「アフターコロナ」という言葉が最近散見されるようになりました。これは、新型コロナウィルスによる世界的危機が収束した後に、どのような未来を私たちが描くかということです。
「人類は今、世界的な危機に直面しています。おそらく私たちの世代の最大の危機です。今後数週間で人々と政府が下す決定は、おそらく今後何年もの間、世界を形作るでしょう。」
これは、世界的ベストセラー『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』の著者であり、イスラエルの歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏が、3月20日、英経済紙「フィナンシャル・タイムズ」に寄稿した内容の一部です。
私も全く同じ考えです。
経済、政治、文化、地方自治体、教育、福祉・医療、働き方、生き方など多岐にわたる分野で、私たちが自らの価値観と向き合い、誰もが自分らしく生きられる共生社会を共創するために、デジタル技術も活用しながら、新しい社会の仕組みを構築する未来志向の決定を下していくべきだと考えます。
以上、令和2年度一般会計予算について、細部の大半の事業については賛同するものですが、その基本となる知事の県政運営・財政運営のあり方に改善を求める意思表示という点で、今回は反対させて頂きます。
ご清聴ありがとうございました。
共生の共創〜自分らしく生きる
神奈川県議会議員
菅原直敏