調査活動

豊田市の環境・産業の取り組み

第1節 調査の概要

豊田市役所を訪れ、総合企画部閑居モデル都市推進課西和也副主幹から、『家庭・コミュニティ型』低炭素都市構築実証プロジェクトの取り組み状況をお伺いし、意見交換を行った。

その後、議会事務局を訪れ近藤雅雄主幹より議場案内を受け、議会運営や豊田市の現状についてお伺いした。

最後に、市庁舎周辺や市内の充電インフラを視察した。

第2節 『家庭・コミュニティ型』低炭素都市構築実証プロジェクトの取り組み状況

 豊田市では、経済産業省の『次世代エネルギー・社会システム実証地域』の指定を受け、『家庭・コミュニティ型』低炭素都市構築実証プロジェクトマスタープランを制定し、その推進母体として低炭素社会システム実証推進協議会を民間19社と発足させた。

 同計画の特徴は、

 ①官ではなく民間主導であること

 ②計画の目標が明確で具体的であること

 ③内容が総合的かつ体系的であること

の二点が挙げられると私は考える。

私がマスタープランの冊子を見て感じたことは、目指す目標が非常に明確で、その具体的な取り組みも予算・期間及び手段といった点において具体的であるということである。従って、5年間の実証期間の中で、その取り組みの検証をすることが可能であり、より実効性のある成果を生む可能性が高いということである。さらに、内容が総合的かつ体系的である点も見逃せない。ある特定の手段や分野に偏るのではなく、個人、団体、公の取り組みやエネルギー創出、効率化、節電など様々なアプローチで取り組みを進めている。

 現在、計画通り進んでおり、例えば市内に70戸のHEMS(Energy Deta Management System)の技術を用いた実証用住宅を建設し、既に入居も始まっている。これらの生のデータを検証することで、取り組みの実効性を確保している。

第3節 民間主導の意義

 同計画が前述したような特徴を持っていることには大きな理由があった。それは、その推進母体である低炭素社会システム実証推進協議会が民間主導で運営されているという事実である。

 このような協議会を作ると大抵は行政主導で事務局運営がなされるが、この協議会に関しては、豊田市はあくまで会長であるだけであり、事務的な部分や運営は他の民間企業が担っている。

 この結果、印刷物や計画等様々な点においてより実践的な取り組みとなっている。例えば、協議会発足時に、和文だけではなく英文でプレスリリースを行っている点等はその最たる例であろう。

第4節 win-win関係の構築

 この推進協議会には多くの企業が関わっているが、それぞれの企業について関わるメリットが存在する。露骨な表現をすれば、豊田市と他の企業の利害が合っていると言える。このことが更なる相乗効果を生んでいる。

 豊田市役所に備え付けられている充電器を使用するのは、まだ発表前のトヨタのハイブリッドプラグインカーである。トヨタにとっても発売前の車の実証実験ができるというメリットがあるだけではなく、豊田市にとっても最新の車を導入でき環境実証実験に生かせるというメリットがある。豊田市の目指す目的と企業側が目指す目的は厳密には異なるが、その方向性を上手に集約することで、両者にとってwin-win関係を構築することで、住民の為にも企業の為にもなる取り組みとして行われている。

第5節 再生可能エネルギーによる充電インフラの整備

 『家庭・コミュニティ型』低炭素都市構築実証プロジェクトマスタープランの中に、充電インフラ・水素ステーションの設置・拡充が挙げられている。この計画に則って、現在豊田市内では、再生可能エネルギーを用いた充電施設が設置されている。

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 以上の写真は、豊田市役所内に設置された充電インフラであり、充電されている車はトヨタ社の発売前のハイブリッドプラグインカーである。充電設備の屋根にはソーラーパネルが設置されており、一回の充電で30キロ程度走行が可能である。同車は電池が切れると、ガソリン稼動に切り替わる仕組みになっており、市内移動だけであれば、ガソリンを殆ど消費することなく車を保有し続けることが可能である。

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 また、市役所だけではなく、市内にも同じ充電設備が設置されている。写真は、豊田市駅前の様子である。

第6節 総括

 豊田市の取り組みは始まったばかりであるが、その計画の内容から具体的な取り組みがイメージしやすく、計画の「見える化」がしっかりと行われていた。この点は非常に重要であり、例えば神奈川県のように「ソーラーパネルを200万戸つける」といくら主張してもその具体的な工程を示せない限り、やはり計画の妥当性は図れない。また、計画が具体的であるからこそ、間違ったときや計画が達成できなかったときの検証がしやすくなる。仮に本県において取り組みをソーラーパネルの取り組みを進めていくのであれば、このような具体的な計画は不可欠である。

 また、民間主導である点もよい。民間の活力をうまく利用することで、その知見が上手に生かされていた。同計画のように技術的な専門性が伴う分野においては、素人集団の行政が主導するよりも、民間が様々な点で深く関わっていた方がよいと思われる。

 さらに、横浜市でも『次世代エネルギー・社会システム実証地域』に選定された「横浜スマートシティプロジェクト(YSCP:Yokohama Smart City Project)」が進行中であるが、豊田市の事例からも、基礎自治体による現場に即した取り組みを期待すると同時に、他のプロジェクトメンバーの調査結果を待ちたい。

 最後に、豊田市議会の議場を見学し、豊田市の現状についても伺った。日本一の企業であるトヨタ自動車を抱える豊田市は財政的に恵まれた時期を過ごしてきた。しかし、2008年9月のリーマンショック発生により、一気に法人税収入が落ち込み、財政的な危機に陥ったことなどを受けて、行政のダウンサイジングの取り組み等について説明を受けた。今回調査した計画が官民一体となった緊密な取り組みとして推進できているのも、このようなトヨタ自動車を中心とした企業と市経済の密接性が背景にあると考えられた。市民の雇用の大半がトヨタに関連し、その企業の帰趨が市民生活を左右するからである。