調査活動

真の分権社会とは~ドイツ調査報告~バーデン=ヴュルテンベルク州について

第1節 調査の概要

 午前中にバーデン=ヴュルテンベルク州の政府行程を訪れ、Werner Schempp氏を始めとする州政府職員より、バーデン=ヴュルテンベルク州の経済政策と連邦政府及び基礎自治体との関係も含めた自治制度について説明を受けた後、意見交換を行った。

 次に、バーデン=ヴュルテンベルク州議会を訪れ、Guido Wolf議長より州議会の運営や選挙制度等について説明を受けた後、意見交換を行った。

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写真:バーデン=ヴュルテンベルク州の政府公邸にて喧々諤々の意見交換の様子

第2節 バーデン=ヴュルテンベルク州の概要

 バーデン=ヴュルテンベルク州は、人口約1,070 万人(神奈川県約900万人)、面積35,700㎞2(神奈川県2,415km2)であり、ノルトライン=ヴェストファーレン州バイエルン州に次いで3番目に人口の多い州である。

 歴史的には、西部のバーデン地方と東部のヴュルテンベルク地方から構成され、米仏の占領統治から1952年に合併して新たなる州として発足した。立地的にはフランスとスイスと国境を接し、EU議会のあるストラスブールライン川を挟んで日帰りの距離にある。

 工業技術等に秀でており、経済的にも力のある州でもあり、ダイムラーボッシュ、ポルシェ等世界的に有名な企業が立地することからも、ドイツ国内における位置づけも理解できよう。なお、同州の経済力を一国と見なした場合、欧州における国別の経済力順位においてポルトガルやベルギーといった国を抜いて第7位となる。

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図表:バーデン=ヴュルテンベルク州の位置

(出典:バーデン=ヴュルテンベルク州のHPより

http://www.baden-wuerttemberg.de/en/In_Europe_and_the_world/86227.html)

 バーデン=ヴュルテンベルク州議会は138名の定数からなる。1953年から2011年まではCDU(ドイツキリスト教民主同盟)が政権を握っていたが、2011年の選挙において、CDUが過半数割れを起こし、緑の党SPD(ドイツ社会民主党)が連立政権を組んでいる。

 従って、首相は緑の党から選出されているが、州議会(Landtag)の議長は慣例により第1会派CDUから選出されている。

 選挙制度は、69の選挙区と69の比例区から選出する方式を採用しており、今回の選挙ではCDUが選挙区で60議席を獲得したにも関わらず、比例区緑の党の躍進を許し、僅差においてCDUが過半数の獲得にならなかった。緑の党の躍進は福島原発の事故が大きく影響している。

 なお、神奈川県とバーデン=ヴュルテンベルク州は、1982年に同州からの申し入れにより国際交流が始まっている。1989年に同州首相より友好関係の公式化の申しれがあり、両自治体の友好提携が行われた 。

第3節 バーテン=ヴュルテンベルク州と連邦政府との関わり

ドイツは16州からなる連邦国家であり、連邦政府に付与された権限以外の広範な権限を州政府は擁している。連邦政府が有する限定的な権限(国防、外交等)を除いて、州は様々な分野に対して自己決定権を持つ。教育もその1つである。例えば、日本では国が小中高の教育内容を一律に定めるが、ドイツは州ごとに異なる。従って、州ごとの地域に根差した教育行政が可能となる。

同州では、前述した通り技術系の有名企業が多いことからもこれらの技術を担う人材を育てることが重要な課題であり、そのことが同州の経済力を強めていくことであると認識している。従って、職業訓練校に行きながら週3日間就業できるシステムを確立する等、技術人材の育成に力を入れている。

このように、分権が進んでいるドイツにおいては、連邦と地方の役割分担がはっきりしており、そのことにより地域ごとの相違が生まれ、そのことが良い意味での州間競争を促し、地域の底上げに一役買っている。

政府関係者に、ドイツの分権の是非について伺ったところ、「地方分権にはメリット・デメリットがあるかもしれないが、やはり現在の形がベストである」旨の答えが返ってきた。自己決定権がしっかり担保されているからこそ、地域に合った自治体運営を行っていけること及び良い意味での地域間競争が行われることをその主な理由に挙げていたが、このことはまさに地域の多様性をドイツ国民が志向していると言えよう。

第4節 バーテン=ヴュルテンベルク州と基礎自治体

 州内には広域自治体である郡と基礎自治体である市町村が存在する。また、郡と市の機能を兼ねた独立市という制度もある。例えば、今回調査したシュツッツガルト市やフライブルク市は独立市である。

 ドイツ連邦の地方自治は、その自立権は連邦憲法に明記されているが、自治体のあり方の細部に関しては州の憲法や法律で規定されている。従って、州ごとに基礎自治体のあり方は異なりうる。このことがドイツに地方自治に多様性を与える大きな要因となっている。

 フライブルク市の事例調査でもわかったことであるが、基礎自治体も街づくり等に関して比較的広範な裁量権を有している。このことが各地域の独自の街づくりを可能にし、地域の多様性を生み出している。

 このような基礎自治体レヴェルにおける分権の進み具合も、日本の地方分権の議論について大きな示唆を与えている。

第5節 バーテン=ヴュルテンベルク州議会

●州議会の現状

バーデン=ヴュルテンベルク州議会は、138人の議員からなり、半数が選挙区から選出され、残りが比例区から選出される。戦後は長期にわたってCDUが政権を握ってきたが、今年の選挙において緑の党が躍進し、CDUが政権の座を譲り渡すことになった。緑の党原発反対の姿勢を従来より示しており、今年3月11日に発生した東日本大震災における原発事故がその大きな躍進理由である。

バーデン=ヴュルテンベルク州は議院内閣制を採用しており、議会棟と政府公邸や各省庁は離れている。日本のように要望・陳情に終始する質問中心の議会運営ではなく、特に与党会派は行政運営に責任を持つ形となっている。

日本においてもこのような地方議会における議院内閣制も一つの選択肢として採用できるように法制度を整備していくことも検討に値するのではないかと強く感じられた。

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写真:バーデン=ヴュルテンベルク州議会棟

●開かれた議会~年間4万人の来訪者

 私達が訪れた日は、多くの子ども達で州議会も賑わっていた。州議会を見学するためである。同州議会への年間訪問者数は約4万人に上り、その半数が子ども達だそうである。これは学校の教育プログラムの中に州議会の見学が組み込まれていることにも由来する。この4万人という数字は驚異的な数字であると同時に、この子どもの時の経験が民主主義の担い手である有権者を育てる意義を持っている。

 本県においても子ども達が議会見学をする風景を見かけるが、同州議会の来訪者数と比較すると数字が一桁少ない。県議会や地方自治に対する理解が住民に不足している現状を勘案すると、教育プログラムに高校に入るまでに一度は県議会または市議会を見学することを位置づけることも必要ではないか。

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写真:州議会議場を見学する子ども達

第6節 総括

●多様な価値観の許容と地方分権の必要性

 バーデン=ヴュルテンベルク州の調査を通じて感じたことは、地方における裁量権を大きくすることで多様な社会構造を許容することの重要性である。このことにより①地域の特性に即した行政運営を行えることと②よい意味での州間競争が行われることで、地域に多様性と活力が生まれるからである。

 日本の中央集権制度はある時期まで一定の成果を生み出してきたが、現在は地域の画一化をもたらし弊害が目立ってきた。ドイツのような視点に立って分権を目指していくことは喫緊の課題であると考える。

●都市制度の意義

 州内最大の都市であり独立市でもあるシュツッツガルト市との関係において、バーテン=ヴュルテンベルク州の位置づけを考えた際、二重行政のごとき問題は日本の県と政令市の関係ほど生じていなかった。また、州への帰属意識が住民に強いため、独立市が州から独立した都市州になることはまったく考えられないことであるとのことであった。

 このような事例を勘案する限り、横浜が神奈川県から独立する際の意義や横浜市民の神奈川県に対する帰属意識というものを改めて考えてみる必要があると考える。

●本県における応用

 第一に、国と県及び県と基礎自治体の関係や役割分担を改め検討し、日本の地方自治のあり方を抜本的に見直す時期に来ていると考える。従って、神奈川県においては従前から提言してきた地方自治法の抜本的改革も含めて継続的に地方自治のあり方を提言していくことが必要であると考える。

 第二に、バーデン=ヴュルテンベルク州とシュツッツガルト独立市との関係は、神奈川県と横浜市との関係における多くの示唆を示している。横浜市川崎市では大都市制度に関する研究が盛んであるが、このような外国の事例も参考にしながら、本県においても大都市制度に関する研究を行っていくことが重要であると考える。また、議会においても特別委員会を立ち上げるなど対応を行っていく必要がある。その際、横浜市等との協議の場も設けることも一考に値する。

 第三に、州議会における子ども達の見学者数の多さは驚異的である。本県においてももっと県議会や民主主義に対する理解を深めるために、積極的に見学者の受け入れを行っていくべきであると考える。

 最後に、州政府及び州議会の対応を受けて感じたことであるが、彼らは自分達の自治体を売り込むことに大変熱心である。いかなる対応をすれば相手が喜び、自治体を気に入り宣伝してくれるかを心得ている。こういった受入者に対する対応には本県も学ぶべきことが少なくない。