会派視察最終日、熊本県庁にて「障害のある人もない人も共に生きる熊本づくり条例」についての調査を行いました。
2011年の県議選の公約において、私は「(仮称)障害者差別禁止条例」について提案しましたが、継続的に調査を進めています。
1.条例の制定の沿革と目的
この条例の沿革は、平成20年の蒲島郁夫知事の最初の選挙の際のマニフェストにまで遡ります。知事には障害者の権利条例の採択などの時代背景が念頭にあったようです。
その後、平成21年に「障がい者への差別をなくすための条例検討委員会」を設置し、千葉県の先行事例を参考にしながら熊本県独自の条例づくりが進められたとのことでした。平成22年には障がい者・家族団体を含む50以上の団体との意見交換やタウンミーティング及び県民説明会等を経て、平成23年に県議会において全会一致で可決されました。
条例の目的は、障がい者の権利擁護等のための施策を総合的に推進することにより、障がいの有無にかかわらず、すべての県民が、社会の対等な厚生要因として、安心して暮らすことのできる共生社会の実現を目指すことです。
2.条例のポイント
本条例のポイントは、①不利益取扱いの禁止、②合理的配慮の提供、③相談体制・個別事案解決の仕組み及び④県民理解の促進です。
①不利益取扱いの禁止では、福祉サービス、医療、商品販売・サービス提供、労働者の雇用、教育、建物等・公共交通機関の利用、不動産の取引及び情報の提供の8つの分野で不利益取扱いの「ものさし」を規定しています。
②合理的配慮の提供では、社会的障壁の除去について、過剰な負担とならない範囲で、必要かつ合理的な配慮がされなければならないとし、求められる合理的配慮の内容は、事案ごとに個別に判断します。
③相談体制及び個別事案解決の仕組みでは、地域相談員及び広域専門相談員による相談対応と、熊本県障害者の相談に関する調整委員会による助言・あっせんを行っています。なお、広域専門相談員は社会福祉士や精神保健福祉士から公募しています。
④県民理解の促進では、県出前講座、県職員対象の特定課題研修、条例ポスター掲示及び相談事案の相手方への研修などの啓発活動やくまもとハートウィーク(毎年11月)を設けています。
特に県民啓発用に作成された21ページにわたるパンフレットは、13種類の障害について分かりやすく説明されており、非常に良い取り組みであると感じました。
3.注目した点
①差別の定義の難しさ
条例の作成過程で当初は差別を定義しようと試みたそうですが、この点については非常に困難であるため見送ったそうです。ただ、そのことにより差別という言葉が条例内から失われることを危惧した当事者団体からの申し出もあり、前文に差別について言及されています。
②罰則規定を設けなかった理由
罰則規定を設けるべきであるという意見もあったそうですが、本条例では敢えて罰則を設けていません。差別の根本的な理由に障害対する無知があるため、むしろ啓発を活発に行っていくことの方が大切であるとの判断だそうです。ただ、調整委員会の勧告に従わなかった場合、該当業者の名前を公表する仕組みはあります。
③障害者差別解消法との関係
平成28年4月より施行される障害者差別解消法との関係において、法政部局からは条例自体の存在意義を問う意見もあがったそうです。しかし、本条例の担当職員は法律と基本的な部分は重複しても「上乗せ」として熊本県独自の取り組みを行っていく点に意義があると考え、条例の存続に拘ったそうです。
担当職員の皆さんの条例に対する思いと決意を感じました。素晴らしいことです。
以上を本県に当てはめてみると、条例の制定意義は多分にあると考えます。特に福祉先進県と言われた神奈川県の復活を条例の制定を通じて目指していくべきでないかと考えます。
今後も他の自治体の事例を追っていきたいと思います。
千里の道も一歩から