石川県羽咋市を訪れました。調査内容は「農業地域の活性化及び振興策について」でした。特に神子原地区の取り組みについて、担当職員の方々からお伺いしました。
神子原地区の課題として、①集落人口の半減、②高齢化、③農業後継者不足、④急斜面による耕作不利、⑤減収率の上昇、⑥離村率の上昇及び⑦豪雪などの課題を抱えており、この点について行政だけでなく住民などが真剣に取り組み成果を出した過程の説明を受けました。
成果としては、神子原米の1俵の値段は13,000から42,000円になり、その米で作られたお酒「客人」は720mlで3万円強と日本一高いお酒と呼ばれるまでになりました。
なお、羽咋市はあまり聞かない街ですが、「UFOの街」「ローマ教皇に献上された神子原米」などで話題の市です。
今回の説明の中には行政や公務員のあり方、プロジェクトの進め方等についていくつか示唆のある内容でした。3つのマインド(気持ちの持ちかた)で整理してみました。
1.マインド1〜「公務員の悪いところは計画を作って満足をするところ」
これは私もいつも感じていたところですが、当事者である公務員の方からその発言が出るところに意義を感じました。実践が重要との位置付けでしたが、その通りだと思います。
このコンセプトから始まっていることがそれなりの成果につながったのだと思います。
2.マインド2〜戦略性
「神子原米をブランド化する」という結果を出すことを目的としたため(世の中のプロジェクトでは当たり前のことですが)、戦略を明確にしました。
3つの基本戦略として、メディア戦略、ブランド化戦略、交流戦略を立て、具体的な行動を起こしていきました。
対策①空き農家、農地情報バンク…空き家を月2万円で貸し出し→13家族が入居
対策②烏帽子親農家制度…大学生を農家に受け入れ→法政大学の学生を中心に多くん学生を受け入れたが、中心となった教授の退官に伴い現在は中止
対策③ストーリー性…どうすれば消費者が納得し、農家所得が向上するストーリーを描けるかを検討…ローマ法王に米を献上したり、外国人記者クラブにお酒を宣伝することで話題作り
対策④周知と規制緩和推進…国や県の様々な制度を活用、お神酒特区→農家のやる気アップ
対策⑤交流の推進…烏帽子子づくり、農家カフェ、棚田オーナー制度→交流人口の増加による活性化、高齢化率の低下
対策⑥ブランド化戦略…神子原米の弱点を正確に把握し、対策を立てる…所得の増加、生産意欲の向上
3.マインド3〜発想の転換
神子原米のブランド化の過程で、様々な発想の転換を行政が農家に促した点は大変興味深かったです。
行政が最初に神子原地区の米のブランド化を農家に提案した時に手をあげたのは100軒強の内3軒だったそうです。その大きな理由の一つが「今は農協が買い取ってくれているが、ブランド化して売れ残ったら市が買い取ってくるのか」ということだったそうです。米のブランド化を発想した目的が農家の所得の向上であり、値段の主導権を農家が握ることがだったため、この点を説得することはなかなか大変だったようです。
あえて農協依存からの脱却を行動に移したことも大きな成果につながったと思います。
今では、神子原地区の成果を全市に波及させるために自然栽培普及を羽咋市は推進しており、肥料を売る側の農協が協力するという不思議な協力関係も始まったそうです。
他にも色々と興味深い点はあったのですが、冷静に考えると、目標やターゲットを明確にし、的確な戦略を立て、成果を目指すということは民間企業であれば当たり前のこと、というよりも存在の前提条件です。
ただ、行政においてはこれが当たり前でなく、その意味でこの当たり前のことを実行に移しているという点で羽咋市の取り組みは注目に値します。
そして、この実行の背景にあったのが、意志のある職員がいたということです。やはり人が大切です。
最後になりましたが、対応してくださった職員の皆様ありがとうございました!
千里の道も一歩から